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斉藤一人さん 違う努力をしてみたらどうなんだい

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ひたすら働くこと、イコール儲かるということではないの!?

一生懸命働けば、楽になるんじゃないの!?

 

 


祖父

私がどの中学へ進学するかは、我が家では大問題でした。

「医者か弁護士になれ」という祖父は、私は私立の進学校に行かせる気でした。

戦争で勉強することができなかった無念が祖父にはあり、好きな勉強をしていい学校に行って、それで立派な資格を持つ職業人になれたら、こんなに幸せな人生はないではないか、という強烈な信念がありました。

祖父は頑固な人でした。

祖父のことを、一人さんはこういったことがあります。

「かんちゃんのとこのおじいさんはあれだけ頑固だから、あそこまで店を大きくできたんだろうな。

でも、あれだけ頑固だから、そこで終わっちゃうかもしれないな」

その通りでした。

魚屋の2代目を継いだ両親には、店を盛り上げて息子に渡したいという気持ちもあったようです。

ただ、商売に波があるのは重々承知していましたから、「資格があれば収入も安定する」

「医者から弁護士になった日には、社会的な地位も信用も違う」などと祖父に言われれば、

そうかなとも思い、祖父が切り出す「安定」「地位」「信用」という切り札に対抗できるカードを、母達は持っていませんでした。

私自身はどうしたかったのか。

何でもよかったのです。

一人さんに商売を教えてもらい、小学生で露天商になった時は一人前の商人になったようで愉快な気分でした。

ただ、医者や弁護士もかっこいいと思えたし、第一、頑固な祖父が「医者だ」「弁護士だ」といえば、その期待に応えなければならない義務感のようなものを感じていましたから、

僕は私立の進学校に行くらしい、と祖父が引いた進路に何の疑問も抱かず、スルスルと入っていたのです。

祖父も両親も私も、とにかく良い学校に行っておけば損はない、と思っていました。

問題はお金でした。
祖父が望んだ学校は中・高を一貫教育の私立で、卒業までに相当な学費がかかりそうでした。

無事卒業したところで、本気で医者になるなら、べらぼうなお金が必要でしょう。

下に弟もいましたから、私が祖父の期待に応えるも何も、目の前には「お金」という現実問題があったんです。


ホッケ週間


当時の我が家には、月末になるとなぜか毎晩ホッケの干物が続く、ホッケ週間というのがありました。

「また、ホッケなの!?」

私が文句言うと、母はこくりと頷き、

「そう、ホッケは美味しいからね」

と言うのです。

それは、美味しくないとは言わないですが、毎晩ですよ、毎晩。

大きな店の売れ残りでした。

こんな話ばかり話すと母はなくでしょうか、子供の頃、私は「お肉」というのは串に刺したものだとずっと信じていました。

我が家では串カツかハムカツが「お肉」であり、ソースをたっぷりかけて、その辛さの勢いでご飯を2、3杯かき込むというのも月末の定番メニューになっていました。

そうした月末メニューの原因の一端は、実は私にもありました。

私は子供の頃から体が弱く、アトピーには長く悩まされていました。

しょっちゅう風邪をひき、医者通いをしていましたから、治療費がかさむと、店の支払いもあり、最後は食事にしわ寄せがいったのです。

だからといって私が気に病むことも、ひもじいと感じたこともないのですが、この頃の記憶は母には小骨のように刺さっているらしく「ホッケしか食べさせてやれなかった」「6人一緒にも見せてやれなかった」と、今でも悔やむように言うことがあります。

今、私も親になってみると、母の悔しさがよくわかります。

親であれば、子供にはああいう経験はさせたくない。

祖父が頑張って大きくしたお店は、私が小学生の後半になる頃、祖父の頑固さもあって急速に小さくなっていったのです。


「それで、元は取れるのかい」

あの言葉にショックを受けて以来、母は子育てのこと、店のこと、さらには自分の人生について思い巡らせているようでした。

私の進学資金という現実問題も浮上してきました。

やるべき事は増えていくのに、資金は手詰まりの状態。

そのジレンマに母達は四苦八苦していたのです。

いつもの喫茶店で、母が店がうまくいかないとこぼしていました。

そのことで祖父と意見が合わない、と愚痴も出ます。

すると、一人さんは言いました。


違う努力をしてみたらどうなんだい


「いいんだよ、おじいさんは。

自分で店を立ち上げて、大きくして、また小さくなったところで、おじいさんは精一杯やったんだよ。

そういうおじいさんの姿勢に学んで、これからおまっちゃんやかんちゃんが、次のステップに昇華させていけばいいんだよ」

我が家の経済状態で頭がいっぱいの母です。

「次のステップ」とか「昇華」とか言われても、ピンと来ません。

「要するに、商売というのは、どうすればいいんでしょうね」

母が聞き直すと、一人さんはこう言ったのです。


「商人というのは稼ぐのが仕事なんだよ。

お金を稼いで、回していくのが使命なんだ。

商人は社会にお金を回していく心臓みたいなもんさ。

お金が全身にくまなく回っていけば、日本という体は元気になるだろ。

俺たちのやっていることは社会に結びついている、それを常に意識していくことだよ」

それさえ分かっていれば、後はあんまり深刻に考えないで、稼ぐことに集中すればいいんじゃないかな」


その時、私には一人さんの言っていることがよくわかりませんでした。

だって、母は猛烈な働き者です。

必死に仕事をしてきたのです。

手なんか抜いたことはないのです。

確かに店がうまくいっているとは言えないけれど、でもそんな母に「稼げばいい」というのは、もっと働けと言っているように聞こえました。

でも、そうではなかったのです。

「おまっちゃんさ、これまで散々努力してきたじゃあないか。

そうだろ。

でも、それで駄目なんだろ。

だったら、違う努力をしてみたらどうなんだい」


ひたすら働くこと、イコール儲かるということではないの!?

一生懸命働けば、楽になるんじゃないの!?

生真面目に働いてきた母にとって、ひとりさんの言葉はまたまた衝撃でした。

母は、魚屋を盛り返していくことにこだわっていました。

小さくなっていく小俣の家を何とかしたかったのでしょう。

でも、逆に言えば、母は小俣の家ばかり見ていました。

一人さんは、周りを見て発想を変えてみなさいよ、そうすれば見えてくるものがあるよ、と言っていたのです。
「何をするにも考え方次第だよ、どうせ努力するなら、楽しくやった方がいいだろ。

楽しくやるというのは、手を抜くということじゃないよ。

方法は他にも必ずあるんだから、頭を使えば解決策は必ず見つかるものなんだよ。

それを探していくのが、商売の面白いところだと俺は思うんだよ。

稼ぎたい、儲けたいというのは分かるよ。

でもさ、お金の事ばかり考えている人間は、結局、そこで止まっちゃうんだよ。

他の発想ができないんだよ。

何も考えなかったら人間は成長しないんだよ。

商売というのは人の間にあって初めてできるものだからさ、もっと周りを見て行こうよ。

人の役に立つことも考えていこうよ。

それが商人っていうものなんだからさ。

そうすることで、俺達も人間として成長していこうよ」


週末起業

 

母のような無類の働き者は、何をしなくても上手く行く、という話は絶対に信用しません。

母も根っからの商人です。

仕事とは努力があってもしかるべきものです。

努力しなくてもいいと言われれば、最初から疑ってかかるのですが、「違う努力」があるという発想は目からウロコでした。

さらに、商売をすることで人間として成長していく、というところに母は目を開かされたのです。

そうだ、現状打破するには、自分が変わればいいんだ、と。

魚屋でなくてもいいんだ。

あれはおじいさんの店。

私は私の商いをすればいいじゃないの。

私だって商人なんだもの。

頭をひねって、稼ごう。

それが家族のためになる、世の中のためにもなる、結局、自分のためになるって事じゃないの。

母の中で、何かがはじけたようでした。


私にはまだこのとき、一人さんの話はよく理解できていませんでした。

店の売り上げがどうの、私の学費がどうのと親たちが糾弾しているのを見ていましたから、「人の役に立つ」のはいいけど、家は大丈夫なのかとつまらぬ心配をしていました。

しかし、母はすぐに「違う努力」を始めました。

一人さんの健康食品販売の代理店を立ち上げたのです。

立ち上げたと言っても、魚屋を放り出すわけにもいきませんから、月曜日から土曜日までは本業をきっちりやって、休みの日曜日だけ祖父に内緒で深く静かに売って行く、いわば週末起業です。

最初の頃は知り合いの家まで出かけて行ったり、近所の美容院や旧知の店に商品を置いてもらったりしていました。

そして、中学の志望校を決めなければならなくなった時、母は私を呼んで言いました。

「学費のことはもう心配ないから、お前は勉強だけしっかりやってくれればいいからね」


にっこりと頷いた母の、妙に自信に満ちたその理由が、しばらくすると私にもわかってきました。

 

斉藤一人さんのお話を纏めました。

 

皆様、いつもご精読ありがとう御座います。

 

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