自分の記憶を遡ってみましょう。
何か見つかるかもしれません。
誰かと話をしてみると、見つけやすいかもしれませんよ。
幼少期のトラウマを自覚するには?
小さい頃の影響って、意外な所に残っていたりするんですよ。
自分の性格だと思っていたことが、実は子供の頃に受けた心の傷が潜在意識に残っていて、そのせいでそうなっているというのも珍しくないんです。
こういうのを心理学なんかではトラウマと言うらしいんです。
私はいろんな人と話をしていて、子供の頃に受けた心の傷をその人の中に見つけることが何度もあったんです。
例えば、人と話すのが怖いという人はけっこう多いですよね。
そんな人が、「自分の本音を出して」って誰かに言われても、できないんです。
本音を出すという作業を何十年もしていないと、どれが本音なんだか自分でもわかんなくなっちゃってるんです。
そういう人の特徴というのは、自分の気持ちを表す言葉が少ないんです。
面白いとか、嬉しいとか、悲しいとか、気持ちを表す言葉を使う回数も少ないですし、言葉の種類も少ないんです。
だからね、私が「楽しいね」と言うと、「楽しいね」とそのままオウム返しをするだけだったりします。
「楽しい」という気持ちを表現する言葉をあまり知らないというのは、楽しさを感じた経験が少ないからなんでね。
でも、どこかで自分の感情を仕留めるようなことをしていないと、人間はこんな風にならないんですよ。
この間も、そんな人がいたんです。
みんなでお酒を飲んで盛り上がっていたんですが、その人だけは少しも楽しそうじゃないんです。
でも、「楽しくないの?」と聞くと、「楽しいです」と答えるんです。
私が「何で自分の感情出さないの?」と尋ねると「えっ、そういうのって、言うもんなんですか?」なんてて答えが返ってくるんです。
そこで、いつから感情出さなくなったのか、二人で一緒に探ってみたんですよ。
「前の職場で、出しちゃいけないとか言われた?」
「ううん。違う」
「じゃあ、学生の時先生に言われたのかも」
「いいえ。そうじゃない」
「じゃあ、3歳の頃どうだった? 笑ったりしてた?」
「笑ってた気がする」
こんな感じで、5歳、6歳、と順番に記憶を辿ってみると、どうも10歳の時くらいに感情を出さなくなったようなんですね。
それで、彼女はこんなことを言うんですよ。
「その頃に、私、何か言われたみたいな気がする」
結局、その日はこれ以上思い出せなかったんです。
でも、次の日、彼女は家に来てこう言うんです。
「昨日、ああ言われて、やっと思い出しました。
母親が死んだ時、『これからは、しっかりしなきゃいけない。 そうやって、泣いてちゃいけない』と父に言われたんです。
その時に、これから自分の感情を出さないって、心に決めたんです」
彼女のようにどちらかの親が亡くなった時や、両親が喧嘩した時などの記憶が、両親が喧嘩した時などの記憶が後々まで影響を残し続けている例は多いんです。
彼女の場合、感情を表に出さないということを自分の持って生まれた性格なんだと思っていたんです。
でも、私と一緒に話をしながら振り返ってみると、どうやら、子供の頃の出来事がずっとあとまで影響を持ち続けていて、いつのまにか感情を出さない人になっていたと気付いたんですね。
こんな具合に、子供の頃に体験した親との関係が、ずっと大人になっても影響を及ぼし続けることは本当に多いんです。
こうしたことは、子供の頃のことまで振り返って考えてみると、発見することがあるんですよ。
その時に、誰かと一緒に話をしながらさかのぼってみると、やりやすいかもしれません。
実はね、これは私や貫太たが一人さんにやってもらったことなもらったことなんです。
そのやり方を他の人の相談でも使わせてもらっているんですけれど、結構効果があるんですよ。
自分の心に影響を与えているものを自覚すること。
これが、その悪影響と戦う第一歩になるんですよ。
幼い頃からのトラウマからは回復できるでしょうか?
それに気づけば必ず回復できます。
人生は取り返しがいくらでもできるんですよ。
ただ、それには長い時間がかかる場合もあるんです。
私が一人さんのお話を聞きに喫茶店へ通っていた頃、同じように一人さんのお話を聞いて、相談に乗ってもらっていた女性がいたんです。
その人の息子さんの場合が、まさにそうでした。
その子は、普段大人しくてほとんど感情出さないんです。
この点、うちの貫太と同じだったんで、私も一緒になって熱心にその人の相談と一人さんの答えを聞いていたんですよ。
でも、その子の場合はそれだけでなく、感情がうまくコントロールできず、何かがあると突然切れたようにとんでもない暴れ方をする子だったんです。
例えば、喧嘩で相手の子が倒れているのに、馬乗りになっていつまでも殴り続けるんです。
相手が女の子でもお構いなしで、いつまでも殴り続けたりするんです。
いつもは自分の感情や意見を出さない分、それが何かの拍子に出ると爆発してしまうんですね。
この感情爆発について、そのお母さんとその子は、随分と長い間苦しんだんですよ。
その子の相談で、私が今でもはっきりと覚えているのは、その子が小学校3年生の時に起こしてしまった出来事についてです。
ある日、急に電話がかかってきて、そのお母さんは学校へ呼び出されたんだそうです。
学校へ行って先生から詳しく話を伺うと、学校で喧嘩したらしいんですね。
ここまでは、それまでにも会ったことだったんですが、驚いたのはそのやり方でした。
その子は相手の男の子を、踊り場のところから階段の下へと切り落としたんです。
3M以上もある階段を転げ落ちた相手の子は、病院で手当てを受けなければいけないほどの怪我をしましたが、幸いにも、大事には至りませんでした。
この時、そのお母さんはこう言って叱ったそうです。
「あんた、もしあの娘の打ちどころが悪かったら、死んでいたんだよ。そうすると、あなたは一生、人殺しという罪を背負って生きていくことになる。それで楽しい?」
すると、その子はこういったんです。
「でも、あいつが悪いんだ。
間違ったことをするから、僕は叩いたんだ。
だって、間違ったことをしたら、間違っていることを殴って知らせなきゃいけない」
お母さんにも、学校の先生にも、「自分は間違っていない、あいつが間違っている、だから殴ったんだ」と、繰り返すんです。
この言葉を聞いて、そのお母さんは心の底からぞっとしたそうです。
実は、その女性の境遇も私と似たような所があって、厳しい父親から暴力的に育てられたんだそうです。
そして、その時彼女の父親が言ったこと、そして、彼女がまだ幼い我が子に言っていたことが、まさに、その時に自分の息子が言った言葉そのままだったんで。
本当に、トラウマの因果の恐ろしさを、まざまざと見せつけるような出来事だったんですよ。
一人さんはずっと長い期間、彼女とその子の相談に乗ってあげていました。
でも、結局、その子が、自分の感情を爆発させてしまうことが直せたのは、大人になってからだったんですよ。
自分自分が他の人とは違う、変かもしれないと気づくと、本人はものすごく苦しむんです。
その子もそうだったんですよ。
自分の感情の爆発をどうしても迎えられないので、こう思ったようです。
「ひょっとしたら、僕は『他の人を殴ってやろう、殴りたい』という本当の人間じゃないだろうか」
そう思って、不安だったんです。
そして、自分だけがそんな恐ろしい人間なのかもしれないという孤独感に襲われていたんです。
実は、子供の頃その子のお母さんも、そして私もん、同じだったんですよ。
私は父に精神的な病気があるんじゃないかと思っていました。
そして、その父に私がよく似ていると思っていたんです。
それで、生きているのが怖くなっちゃったんですね。
よく、自殺しようかと考えていました。
その子も、私と同じような不安と孤独で苦しんでいたんですよ。
結局、その子の感情を爆発を救ってくれたのは、一人さんでした。
その子が二十歳を過ぎた頃、一人さんを教えてくれたんです。
「感情を爆発させてしまうのは、君の本性なんかじゃないよ。
ただ、幼い頃に受けたトラウマの影響でそうなるだけ。
人に悪いことをしよう、暴れようと思って自分の感情を貯めているんじゃなく、癖でそうしているだけなんだよ」
そう教わって、その子はすごく安心したようです。
さらに、一人さんはその子にこう言ったんですよ。
「いいかい。子供は自分の両親に何かを与えるために、生まれてくるんだ。
君もそうなんだよ。ご両親に何かを与えるために、生まれてきたんだ。
じゃあね、何を与えに来たのか、思い出してみよう」
こんな風にして、一人さんはその子の幼い頃のことを思い出させたんです。
最初はなかなか思い出せませんでしたが、「3歳の頃は?」「5歳の頃は?」と少しずつゆっくり遡っていくと、その子はだんだんと思い出していったんですね。
それを聞いていた一人さんは、こう言ったんですよ。
「そうか、君はご両親に、愛を与えるために、生まれてきたんだ。
ご両親を愛してあげるのが、君の使命なんだね」
一人さんにこう言われた時、その子の顔はパッと輝き、みるみる笑顔が広がっていったんです。
一人さんはその子の幼い頃の心の傷を自覚させるだけでなく、何のために生まれてきたのかという不安感を消て、人生の使命感を与えてあげたんですよ。
それ以来、その子は感情溜め込むようなことはだんだんとなくなっていき、軽い怒りのうちに外へと出せるようになったんです。
長い間苦しんだ感情爆発から、ついに回復したんですよ。
心の傷から立ち直るには、長い時間のかかることもあります。
その子の場合、自分のトラウマをしっかりと理解し、自分の使命とは何かと考えられるようになるまでには、二十歳になるまでの時間が必要だったんですね。
大丈夫。心の傷は必ず直せます。焦ることはないですよ。
斎藤一人さんの話を纏めました。
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